富山地方裁判所 昭和61年(わ)104号 判決 1986年7月23日
本籍
富山県中新川郡立山町蔵本新二九六番地
住居
右同
畳製造販売業及び木材乾燥業
中村馨
昭和一三年九月六日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官門西栄一、弁護人浦崎威各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金二、五〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は、被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、富山県中新川郡立山町蔵本新二九六番地に工事等を置き、畳製造販売業及び木材乾燥業を営むものであるが、昭和五八年から被告人が家相・地相の知識をもとに会得した「陰陽の方程式」と称する独自の建築方法によって設計施工した建物に使用する畳を高価に販売納入できるようになって業績が大幅に伸長してきたことから、自己の所得税を免れようと企て
第一 昭和五八年分の所得金額は七、四七七万三、五五六円で、これに対する所得税額は四、一〇七万七、〇〇〇円であるのに、売上の一部を除外したうえ、これによって得た金員を仮名預金にしたり、機械設備の購入にあてるなどの不正手段によりその所得の全部を秘匿したうえ、昭和五九年三月九日富山県魚津市北鬼江三一三番地の二所在の魚津税務署において、同税務署長に対し、所得金額が零である旨虚偽の損失申告書を提出し、もって、不正の行為により所得税額四、一〇七万七、〇〇〇円を免れ
第二 同五九年分の所得金額は一億一、五八六万三二三円で、これに対する所得税額は既に源泉徴収された税額を控除すると六、七八四万七、一〇〇円であるのに、前同様の不正手段によりその所得の一部を秘匿したうえ、同六〇年三月六日前記魚津税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二、七三四万三、三六〇円で、これに対する所得税額が一、〇三一万七、四〇〇円である旨虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により所得税額五、七五二万九、七〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示各事実について、被告人の当公判廷における供述のほか、記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)に記載されている次の番号の各証拠
判示全部の事実について
甲の17から135まで
乙の1から13まで
判示第一の事実について
甲の1、3、5、7、10、13、14
判示第二の事実について
甲の2、4、6、8、11、12、15、16
(法令の適用)
被告人の判示第一、第二の各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、情状により同条二項を適用し、所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金二、五〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを全部被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
本件は被告人が製畳業による所得の一部を秘匿して所得税を免れようと企て、売上げの一部除外するなどの方法により実際所得を過少に計上したうえ、昭和五八年分と同五九年分の各所得税につきいずれも虚偽過少の確定申告をなし、右二年分で合計約九、八六〇万円(被告人の長男中村豊名義で申告した税額を差引いた場合は約九、五九一万円)の所得税を免れたという事案あって、逋脱合計額も多額であり、各年分の逋脱率も高率である。そしてその犯行態様は簿外資産の蓄積のため売上げの一部を除外するなどの方法でこれによって得た金員を仮名預金などして留保するなどし、加えて仮名預金の存在が国税当局の調査で発覚するやその仮名預金から引出した預金を取引先に預けるなどしており悪質である。更に動機をみるに、本件は被告人が事業経営上将来発生する危険負担に備えて資金作りの必要からというが、かかる理由自体脱税を正当化するものとはいいえない。被告人も「税金を払わずに、少なければ少ない方がよいと思い申告しなかった」旨述べていることや経理関係の記帳がずさんであったことと相まち、これが多額の納税回避と個人的な蓄財に出た犯行であることは明らかであり、税逋脱の規模等を併せ考えると被告人の刑事責任は重いといえる。しかしながら、他方被告人は既に本税、延滞税、加算税のほか県の事業税も含めて一億四千万余を完納して反省の情を示し、住民税も近く納入する予定であること、更に脱税の事実を捜査段階から認め、公判段階においても終始自己の非を認めて再犯防止を誓っているほか、これまで前科前歴のないことなど斟酌して主文の量刑とした。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 大山貞雄)